新入社員・福田啓太という男
『好きな食べ物は何ですか?』
「あ、唐揚げです」
脳が考える前に、口が動いている。
そんなレベルで、僕は唐揚げが好きだ。
『あいつ大人のくせ、好きな食べ物唐揚げらしいぜ(笑)』
そんな嘲笑が気にならないくらい、僕は唐揚げが好きだ。
更に、僕は自他共に認める、唐揚げが好きそうな風貌をしている。
ベルトに乗ったお腹、笑ったときに膨らむ頬、そして、瞼とくまに挟まれて消える眼。
これらは、明らかに僕が唐揚げを食べて育ってきたことを連想させるだろう。
そんな僕が、大好きな唐揚げとお別れをする日が来るなんて、幼き日の僕は想像することが出来ただろうか?いや、出来なかったはずだ。
時は遡ること2ヶ月前。
僕はいつも通り、ポテチを食べながらダラダラとテレビを見ていた。
その日のゲストはGACKTさんがだった。
『これが生まれ持った才能か・・・』GACKTさんへの羨望と、自分への諦め、2つの視点で番組を見ていた。
番組が中盤のときだった。
GACKTさんが「僕〜デビューして依頼、白い米を食べてないんですよ〜」そう言った。
GACKTさんは筋トレをしている。「スターは自分の身体のために、そこまでストイックになれるのか」、ポテチで脂ぎった指が情けなかった。
しかし、GACKTさんが白米を食べていない理由は全く違かった。
「僕ね、デビューしたときに、この世界でナンバーワンになるって決めたんですよ。それで、ナンバーワンになるためには、そのとき一番大好きだったものを捨てよう、そう決めたんです。だからそのとき一番好きだった白米とサヨナラしたんです」
僕は驚愕した。
GACKTさんは一般人には到底理解でき得ない次元で、自分を律することで、あのスター性とカリスマ性を手にしていたのだ。
そのとき僕は決意した。
一番好きな食べ物である唐揚げと、入社日である4月1日からサヨナラしよう、と。
【石の上にも三年】とりあえず僕はこれからの3年間、唐揚げとサヨナラすることに決めた。
美味しすぎて恋人の話を無視してしまい大喧嘩になった唐揚げ、
恋人がたくさん勉強して作ってくれた唐揚げ、
親友と夢を語り合いながら食べた唐揚げ、
バイト先の店長の長年の経験が詰まった唐揚げ、
就活が上手くいかず大阪の橋の上で泣きながら一人で食べたローソンの唐揚げ、
憧れの人と3時間くらい並んで食べた唐揚げ、そして、
母が僕の誕生日には皿からはみ出るくらい作ってくれた、世界一の唐揚げ、
僕は唐揚げにまつわるエピソードを沢山持っている。
しかし、そんな唐揚げと僕はサヨナラをした。
後悔はある。
今後も食べたくなるという怖さもある。
つい先日、僕たち新入社員は、先輩方からご飯に連れて行ってもらった。
たくさんご飯を食べさせて頂いた後、先輩が更に、「どんどん好きなもの頼んでいいよ!」とおっしゃってくれた。
『本日のオススメ!チキン南蛮!』
その文字に一瞬クラついた。食べたひ。
いや、我慢だ。我慢するんだ福田。
数回の自己暗示のおかげで僕はその窮地を乗り越えることが出来た。
しかし次の瞬間、
『あ〜私、チキン南蛮食べたいですぅ〜(☝ ՞ਊ ՞)☝』
左に座っていた同期の橋爪が、可愛い声でそう言った。
マジかこいつ。俺を殺す気か。
そう思った。
数分後、タルタルソースがかかったチキン南蛮が運ばれてきた。
食べたかった。とても食べたかった。
僕がサヨナラしたのは唐揚げだ。
チキン南蛮ではない。
しかし、チキン南蛮は、甘酢ソースとタルタルソースを唐揚げの上にかけた、明らかな唐揚げだ。
たった決意開始1週間で、『チキン南蛮は唐揚げじゃない』という逃げのルールを作り始めたらお終いだ。
我慢だ、我慢。
その日2度目の自己暗示の末、僕はその危機から逃れることが出来た。
「そんな悩むなら食べろよ」
そんな声も多々聞こえて来そうだ。でも僕はこの決意は正しいと思っている。
なぜなら、唐揚げを食べたいという欲より、僕を採用してくれたサガテレビで、大きく活躍したい!という思いの方が強いからだ。
そして、やはり普通のことをやっていても、突破口は見つからない、と思うからだ。
我慢に我慢を重ねて、努力に努力を重ねて、
3年後、みつせ鶏を使った唐揚げと、のまんばビールとともに、最高の乾杯をしたいと思う。
だから、その日を楽しみにして、僕は今日も頑張りたいと思う。
今回、このコラムを書く上で、就活生に参考になることを書いて欲しいと言われていた。
唐揚げの話やGACKTさんの話で、こいつ何言ってんだろ?と思われたかもしれない。
そんな中で、総じて伝えたかったことは、「大好きなものを捨てられるくらい、熱中できる企業を見つけて欲しい」ということです。
たくさんの企業に応募して、たくさんの人と話して、コレだ!この企業なら大好物を捨てられる!と思える企業を見つけてください!応援してます!
最後に食べた東伏見の定食屋さん『吉野』の唐揚げを添えて。
From higashifushimi with last Karaage.