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2021.04.08

じじぃ放談11「ぼーっとする効能」

 後輩の記者やリポーターたちに「少しはぼーっとしろ」と忠告することがある。若者たちは一瞬きょとんとする。かつて上司が部下に「ぼーっとするな」と言うのは定番だったが、今は逆に「少しはぼーっとして、あれこれ考えろ」と言わなければならない。何しろ、パソコンに向かう以外はひたすらスマホをいじるのは、若者だけに限らない現代。手元のスクリーンを見つめ、メールの着信音に気を取られていれば、当の脳みそは考えるヒマなどない。

 物思いにふける環境に適しているのは、昔から「馬上、枕上、厠上」とされる。「ばじょう、ちんじょう、しじょう」と読む。「馬上」は文字通り、馬に乗って揺られているとき。今で言えば電車やバスの中で眠りを誘われるときだろう。「枕上」は文字通り横になって寝るとき。そして「厠上」は、厠(かわや)、つまりトイレの中。いずれも、ただぼーっとしているとき、というのが共通点だろう。

 馬上と枕上は何となく理解できるし、経験値から言ってもそう。ピンと来ないのは厠上で、これまでにトイレでいいアイデアが浮かんだ、ということがない。かつて、出来の悪い原稿を見ると「オイ、サウナ行って考え直せ」が口ぐせのデスクがいた。でも、サウナでリフレッシュしたり、一人で酒を飲んでも脳はあまり活性化しない。おそらくサウナではビールに手が出るし、ついでに「次は夜の街へ」となるので、あまりお薦めしない。

 この「ぼーっと」を科学している学者がいて、驚いた。機械メーカー「理想科学工業」の広報誌(2021年春号)に教えられた。同誌に寄稿している脳神経科学者・篠原菊紀氏によると、脳が何も考えずにぼーっとしている状態を、脳科学用語で「デフォルト・モード・ネットワーク」と言うそうだ。

 デフォルトは「基準」とか「標準」と訳され、金融用語では「債務不履行」、IT用語では「初期設定」となる。篠原氏は「何も考えず、ただアイドリングしているだけなのに、このときの脳は、実は読書するときの十数倍のエネルギーを消費していることがわかってきた」とか。脳にとっては意味のある活動らしく、「このモードの際に活性化するのは、記憶とか自我に関わる部分。どうやら、脳はこのとき、過去の体験をうすらぼんやり思い出しながら、何か新しいネットワークを構築しようと模索しているようです」。だから、ぼーっとしていて突然、すばらしいアイデアなどを思いついたりするのが、これらしい。

 いやはや、「ぼーっとする」ことがそれほど偉大なことだったとは、恐れ入る。「スマホから離れ、少しは考えろ」という趣旨で、逆説的に「ぼーっとしろ」と言っていたことが、ここまで科学で正当性を証明されると、面映ゆいばかり。そうか、これからは胸を張って、大声で「もっとぼーっとしろ」と言わなければならない。

 人間の脳、恐るべしである。

サガテレビ解説主幹 宮原拓也

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