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2022.03.07

じじぃ放談18 兵、強くとも勝てず

「ウクライナ」に世界の注目が集まる。ナイチンゲールが活躍したクリミア戦争、原発事故を起こしたチェルノブイリ、名横綱大鵬の父親の出身地…。私の知識はこの程度だが、実は1970年の映画「ひまわり」のロケ地だったと新聞で知った。第二次大戦に出征し消息を絶った夫を探し、妻役のソフィア・ローレンが広大なひまわり畑を歩く、あの有名なパノラマ映像は、ウクライナ南部へルソン州が舞台だそうだ。遠いウクライナが急に身近になる。

そのウクライナに侵攻するロシア・プーチン氏が、むき出しの権力を見せつける映像が日本のテレビでも流れた。2000年からほぼ20年間、大統領の椅子に座るプーチン氏が、閣僚を順番に指名してスピーチ席に立たせ、それぞれに侵攻の是非を問う場面である。むろん誰も「ニエット」(ノー)とは言わない。核戦争の警戒態勢に入れ、との大統領命令を聴く国防大臣たちの表情は、寒空の子犬である。プーチン独裁を、映像が生々しく伝える。

ベトナム戦争(1965~1975年)は、カメラが戦場に入った初めての戦争だった。世界は戦場カメラマンたちの命を賭けた1枚で戦争の悲惨さを知り、世界の反戦運動に火が付いた。イラクのクウェート侵攻に端を発した湾岸戦争(1991年)では、米軍を中心とした多国籍軍の攻撃をテレビが生中継した。米軍の巡航ミサイル・トマホークがターゲットに命中したかどうか、米国防長官がCNNのテレビ映像で確認した、と言われたほどだった。

21世紀の戦争は新しい形の映像が世界へ飛び交う。被災した現場の映像が市民の手によって撮影され、SNSで発信される。ミサイルが飛び込んできた建物やビルの様子、地下に避難した市民の姿、他国へ逃げ惑う車列などが次々に日本へ届く。侵攻してきた武装ロシア兵にウクライナ女性が「なぜここにいるの?」と厳しく詰め寄る映像もあった。日本から8000㌔離れた遠い戦争が、庭先で起きているような錯覚に陥る。戦争がすぐそこにある。

「盗人にも三分の理」はあろう。「悪のロシア、善のウクライナ」と短絡視してはいけないのかもしれない。プーチン大統領が、米英を軸とするNATO(北大西洋条約機構)の不拡散方針を米国が反古にした、と怒りをぶちまける映像も流れていた。だが、いかなる大義があろうと、圧倒的な兵力と核の脅しで小国をいたぶる構図は、あまりに愚かである。

「兵強ければ 則(すなわ)ち 勝たず。木強ければ 則ち 折る」

軍隊がいくら強くても力づくでは勝てない。樹木に柔軟性がなければ、簡単に折れる。古代中国の思想家である老子の言葉は続けて、「強大なるは下(しも)に処(お)り、柔弱なるは上(かみ)に処る」とする。強くて大きなものこそ下にあり、弱く柔らかいものこそが、上にあるという意味である。

柔道家でもあるプーチン氏は「柔よく剛を制す」との言葉を知らぬはずはあるまい。一見弱きものが、そのしなやかさで巧みに強きものを倒す。これも同じ老子由来の言葉だそう

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