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「ふるさと納税」の罪
「クールビズ」が始まっても、できるだけネクタイ着用を心掛けることにしている。朝夕はまだ涼しいのに「あれ、まだネクタイですか」と白眼視されるから、日本には「クールビズ法」でも制定されたか、と思ってしまう。
確かに、温暖化が進み、冷房需要を極力減らそうという趣旨は理解できる。ただし、きっかり5月1日をもってほぼすべてのサラリーマンやお役人のスーツ姿からネクタイが消えている光景は、号令一下の軍隊を想起するし、どこぞの独裁国家の洗脳された国民を思い起こして、気味が悪い。
同じお役所主導でも、つくづく罪深いと思うのが「ふるさと納税」制度である。
ざっくり説明すれば、「納税」という名の寄付で、個人が特定の自治体に寄付すれば、その人が住む自治体から寄付した分を控除され、寄付した自治体からは「返礼品」という名のおまけがついてくる。
財政難に苦しむ地方の自治体にとっては、税金集めの「打ち出の小づち」で、返礼品を目玉に「わが町へ」と誘致合戦が相次いだ。寄付する側にしてみれば、節税に加え、返礼品までもらえて、全国自治体まるごと「カタログショッピング」に成り下がっている。「ふるさとへの納税」という美しきタイトルはずばり、まやかしである。
目先の利益を追う「納税者」は増える一方で、総務省の統計によると、創設当初の2008年度に全国の自治体が受け入れた寄付額がざっと81億円だったのが、2016年度は35倍の2844億円に。受け入れ件数も5万3千件から1271万件とべらぼうに増えている。返礼品競争の「度が過ぎる」として、総務省は返礼品に規制をかけたり、品行の悪い自治体への寄付に対する税の優遇策を取り消したりと、躍起になっている。だが、元はと言えば、返礼品をエサに税金を集めようとした制度設計段階でこうした事態は十分予測できたわけで、「打ち出の小づち」にすがった貧しい自治体だけを責めるのは酷だ。
5月14日に総務省から「返礼過剰」としてやり玉に上がった全国4市町の中に、佐賀県みやき町という自治体がある。人口2万6千人足らずの県東部の町は、2018年度にふるさと納税で約168億円の寄付金を集めた。
寄付金の返礼品としていたネット通販大手・アマゾンのギフト券などが、「地場産品ではない」と指弾された。町はこれまで寄付金を元手に給食費の無償化や医療費の無償化などに取り組んでおり、ふるさと納税の制度から弾き飛ばされることになると、こうした町民への支援策が危うくなる。
過疎化で地方自治体の財政も危機である。ところが、地方の救済策どころか、その場しのぎのカネ稼ぎの道を提示したのが「ふるさと納税」という制度である。そうした政権側の魂胆を見抜けず、ギャンブルで手にしたあぶく銭で将来を担う子どもたちを育てようとした自治体トップは、猛省すべきである。
国家百年の計はどこへ行った。罪深きかな「ふるさと納税」である。
サガテレビ解説主幹:宮原拓也
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