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2019.06.12

ネット脳の言語

新聞の世界では「文は人なり」と教わる。文章は機械が書くのではなく、取材者の思いや人柄がにじみ出るからだ。テレビの世界も同様で、いくらアナウンサーがうわべだけきれいに伝えても、中身や背景に無知だと言葉が浮いてしまい、画面そのものが軽薄になる。「声は人なり」なのである。

日本維新の会から除名処分を受けた丸山穂高議員(35)=大阪19区=が、北方領土を巡って言い放った「戦争」発言を聞いて、3年前に話題になった「土人発言」を連想してしまった。沖縄の米軍ヘリパッド建設現場で、大阪府警機動隊から応援にやってきた警察官が、反対派に「どこつかんどるんじゃ、ぼけ、土人が」と怒鳴った、あの一件である。

無論、「本土の人たちの根底にある、沖縄差別意識の表れ」との批判は当然として、「土人発言」直後の朝日新聞が、「沖縄と福島の人に対して、ネットの世界では『土人』という言葉が使われている」との指摘に、なるほどと納得した。沖縄の人たちは米軍基地の、福島の人たちは原発の、それぞれ補助金で暮らしている、だから「土人」だと揶揄する、いわゆる「ネット用語」なのである。

ネットの世界にどっぷりと浸っていると、悲しいかな、そこに書かれた言語が日常語となり、思考停止する。ネット脳に犯されてしまった人たちは、総じてモノの見方が単線、短絡的で、決め付け話法で、他者への配慮などみじんもなく、差別的な言い回しなどがその特徴だろう。平たく言い換えると「北方領土取り戻すには、戦争しかねーだろ」という単線思考の丸山議員は、「土人」が日常語だった警察官と同じ「ネット住人」と断言できる。

丸山議員は1984年生まれ。ネット全盛時代の申し子ともいえ、世代としては「土人」発言の警察官ともダブる。ただし、丸山議員は日本の最高学府で学び、国家公務員として経産省入りし、さらには松下政経塾を経て、国会議員となった、いわゆる知性派であるがゆえに、より罪は重い。片や「武闘派」、片や「知性派」と生きる世界は違うものの、いずれもネット言語に染まり、薄っぺらい思考方法に成り下がった点は一緒。ネット時代の罠にはまってしまった、哀れな被害者と言えなくもない。

8年前に56歳で亡くなったIT界の巨人で米アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏が、亡くなる1年ほど前に米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに答えている。

「お子さんたちもさぞ、iPad(アイパッド)が好きなんでしょうね」

アイパッドが大ヒットしていたころだ。同紙記者の問いにジョブズ氏はこう答えている。

「家ではハイテク機器の使用を制限しているから、子どもたちはアイパッドを使ったことがないんだ」

ハイテク時代の巨人は、自ら産み出したIT機器に潜む「魔物」の存在を予言していたのだろう。

サガテレビ解説主幹 宮原拓也

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