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【戦争の記憶】戦時中の言論統制 “被害は極めて軽微”と報じられた鳥栖空襲

2022/08/17 (水) 17:30

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太平洋戦争が終わってから77年。日本はその後、他国と戦火を交えていませんが、ウクライナ侵攻など戦争・紛争は絶えません。サガテレビが過去に取材した人の記憶を振り返り、改めて戦争、そして平和について考えます。

≪2016年8月17日放送≫
(年齢は放送当時)

分厚い鋼に空いた穴。71年前、交通の要所だった鳥栖駅周辺をアメリカ軍機が爆撃し、市民など119人が命を落とした際、爆弾の破片が貫通した跡です。空襲としては県内最大の被害でありながら、それに関する資料がほとんど残されていない鳥栖空襲。物言わぬ鐘が、その悲劇を現代に伝えています。

多くのサッカーファンが行き交う鳥栖駅。今から71年前、鉄道を守るために設置されていた高射砲を狙いこの場所も米軍機の空襲を受け戦火に包まれました。

1945年昭和20年8月11日。沖縄を飛び立ったおよそ80機のアメリカ軍爆撃機が鳥栖市上空に飛来。鳥栖駅周辺は、午前10時半から1時間弱で3度の波状攻撃を受けました。

「馬は腸がばーんて出る。牛は頭突っ込んで足が上にあがっとる。地獄のようだったですよ。そのときのことを思い出す」

鳥栖駅の南東に隣接する藤木町に住む松雪ハルエさん。当時15歳だった松雪さんは学徒動員で毎日久留米市の工場に駆り出され地下足袋を作っていました。その日、松雪さんが作業に取り掛かると、すぐに爆撃機が近付いたことを知らせる空襲警報が鳴り響き、友人らとともに防空壕へと避難しました。

「真っ黒になって友達が横にいても顔がわからないくらい煙がきて、えすか えすか(こわい こわい)でみんな泣いてね」

なんとか空襲を逃れた松雪さん。久留米市から自宅へと逃げ帰る途中で、藤木町も大きな被害を受けていることを知ります。

「どんどん走ってきて踏切のところまで来たら線路が1本ばーんて物見やぐらの上にあがって。爆弾でやられて。衝撃で、そこに、ごろごろ、そこに、ごろごろ。そこに3人、そこに4人死んでいた。無残なものですよ、そりゃ戦争するならね」

鳥栖空襲では住民をはじめ、旧国鉄鳥栖機関区の職員や学徒動員の若者など119人が亡くなりました。空襲の被害では県内最大です。
しかし戦時中の言論統制下、翌日の新聞は「被害は極めて軽微」と報じました。また、終戦前後の混乱もあったせいか、資料はほとんど残っていません。

【鳥栖市教委生涯学習課 島孝寿さん】
「鳥栖市としても資料は持っておりません。過去調べたデータ、戦後の写真しか現在はないような状況。記録を残すような余裕も当然ないでしょうしね」

太平洋戦争終結から3年後の1948年に撮影されたこの写真。畑に落ちた爆弾の穴が直径10メートルもの池になった通称爆弾池が、爆撃のすさまじさを物語っています。

被害の様子が良くわかる貴重な資料が久留米市で公開されています。鳥栖空襲の半年ほど前にアメリカ軍の偵察機が撮影した鳥栖駅周辺の写真です。そしてこちらが戦後、民間の測量会社が撮影した航空写真です。比べると、畑の中に確認できるいくつもの黒い穴。爆弾が落とされた跡です。鳥栖空襲では約95.8トンもの爆弾が投下されたといわれています。
空襲の恐ろしさを伝えるのは写真だけではありません。

「ここがやられたですたい。あら、まだそのまま」

鳥栖駅から南に300mほどの場所にある長福寺。寺では爆弾の破片が貫通しても燃えずに残った経本と、音色を変えなかった鐘が今でも使われていました。

【長福寺 堀田禅昌住職】
「もはや戦後ではないと言うけど私にとっては戦後は死ぬまでついて回るんじゃないかと思う。傷がなくなるわけじゃないしお経の本もなくなるわけじゃない」

住職の堀田禅昌さん。藤木町で生まれ育った堀田さんは空襲で心と体に傷を受けました。当時5歳だった堀田さんは、空襲で仲が良かった兄2人と祖母を亡くしました。また、自らの両足にも爆弾の破片が当たり今も傷が残っています。

「避難所に行ったら行ったところが死体置き場だったんですよ。『ここは死体だから生きてるやつは来るな』と言って追い出されたのは記憶があります。地獄絵図というとこでしょうね」

遺体がなく着物の着れ端だけが残った人、一家全滅した家。戦争が終わったのは、その4日後でした。空襲下の惨状はいまも心に影を落とします。先の大戦から71年。戦争の体験を後世へ語り継ぐ、難しさを感じながらも、堀田さんは平和を静かに祈ります。

「絶対そりゃ世界平和なんて来ないというけど、なんとかそこに近づこうと努力することに意義があるんじゃないかと。初めから諦めておったら、何事も始まらない」

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