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2021.08.10

じじぃ放談14「フェイク日本語」を見破れ

 政界の表舞台からトランプ前大統領が消えて以来、彼の十八番(おはこ)だった「フェイクニュース」もすっかり影を潜めた。これはこれでいいことだろうが、代わって最近気になるのが、本来の語意や語源を踏みにじって、ある意図やもくろみを感じさせる言葉が増えていることだ。特にコロナ禍の日本で多用される「コロナ用語」には要注意である。トランプ氏にあやかって、こうした言葉を「フェイク日本語」と呼びたい。

 最たる例は、ワクチン接種で話題を呼ぶ「副反応」という言葉。いつから使われているのか不明だが、実は3年前に改訂された広辞苑第7版にも載っていない。「副作用」が一般的で、英訳も「Sideeffect」と同じだ。おそらく言葉の響きなどから「副作用」より軽めの症状をイメージさせるため、厚労省や医療者側が使い始めたのでは、とみる。某全国紙にも「薬の場合は副作用で、ワクチンでは副反応」ともっともらしく書かれていたが、じゃぁ、外国人に英語で説明できるのだろうか?当局側の何らかの魂胆を感じる。

 誰が考え出したか、コロナ対策として使われて久しい「3密」という言葉も、フェイク日本語のひとつかもしれない。つい7月29日付の朝日新聞コラム「天声人語」によると、「三密」とは真言密教の法理で、「身密、口密、意密」(しんみつ、くみつ、いみつ)のことだとか。身(行い)、口(言葉)、意(心)は煩悩のもととなり、これらの密を律せよ、との教えだそうだ。見た目は同じでも、密集、密閉、密接を避けましょう、という薄っぺらい言葉とは根本的に違う。真言宗の開祖・空海殿も、今ごろの「3密」ばやりを呆れておられよう。

 菅首相も多用している、最近はやりの言葉に「人流」がある。ところが、これも広辞苑への記載はない。統計用語なのか、最近の造語だろうか。「物流」をもじって、電車や町中などの人の流れを称していて、わからないではない。ただ、会社からわが子の待つ自宅に急ぐサラリーマンも、孫に会いに行くおじいちゃんも、デートで待ち合わせする若い男女も、どれもこれも、まるでモノのように一緒くたにしている冷徹さが感じられて嫌な響きがある。なぜ「人の流れ」じゃいけないのだろうか。やはりこれも「フェイク日本語」に認定したい。

 おそらくお役人の下書きをベースに、政治家の口からこうした言葉が世に出るのだろう。霞が関は日本の最高の頭脳集団だから、確かに言語能力は高い。しかし、そこには必ず世間を惑わす隠し味が潜む。今や大盛況の「ふるさと納税」なる命名は、フェイク日本語の真骨頂である。律儀にわが生まれ故郷を思って寄付する人はおそらくそんなにいないはずで、実体は「節税もできるカタログショッピング」である。税収に悩む地方の自治体にとっては、労せずおカネが集まる打ち出の小づちであり、行政が「返礼品屋」に成り下がっている。

 政治家やお役所発の言葉には敏感でありたい。「フェイク日本語」によって、美しい日本語も汚され、人心も野卑にさせられる。

サガテレビ解説主幹 宮原拓也
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