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じじぃ放談 9【 政治家は「顔が命」】
「顔」の付く日本語は極めて多彩だ。顔のつくりそのものを意味する「顔立ち」に始まり、「顔合わせ」は交渉事や恋路の手始め。「顔つなぎ」や「顔出し」は行った方がいいが、「顔を貸せ」と言われたら行かない方がいい。「顔なじみ」や「顔役」は、本来の「顔」から離れた独特の意味を持ち、わが子が法を犯したら父親は「世間に顔向けできない」と嘆く。それだけ日本では、「顔」という言葉が人格化する。
コロナ禍で今やマスクが必需品となった異様な社会は、こうした日本人の持つ行動様式や社会規範を不毛のものにしかねない。大型のマスクが顔を覆うから、「顔が曇る」ことや「顔がほころぶ」ことが読み取れず、「顔色をうかがう」ことができない。それでも、サラリーマンやお役人たちは、上司や上役に忖度しなければならないから、辛い。
菅義偉首相が就任して2カ月半ほどになる。コロナ対応に日々追われ、同情するが、この方は常にポーカーフェイスで、マスクがあってもなくても、同じ無表情である。おまけに国会論戦にしても、記者たちを前にした取材対応にしても、変わらず棒読み答弁が多いので、感情の起伏が読み取れない。よく言えば堅実なのだろうが、総じて言葉に抑揚がないので、政治家としての熱さや情感が見えにくい。これでは、国民の共感は得られない。
混乱を極めた米大統領選を日本から見ていると、両候補とも表情豊かだった。トランプ氏は選挙戦を通じて、単純極まりない論法ながら聴衆を喜ばせ、親指を突き立てて人々に笑顔を振りまく。一方のバイデン氏も、スピーチの名手で人生経験豊かなだけに、言葉が生きていて、お年寄りながら表情にメリハリがある。女性の副大統領候補・ハリス氏の短いスピーチにはうなった。「私は女性初の副大統領候補です」と拍手を受けたかと思うと、すかさず「しかし、最後ではない」と拍手のボルテージを上げさせる。言葉の力と同時に、情感の豊かさが表情ににじみ出る。
12月4日の新聞朝刊。全国紙5紙に、人気のアニメ「鬼滅の刃」1億冊突破の広告紙面が掲載されて、話題が沸騰した。1紙ごとに3ページずつ、アニメのキャラクター3人の顔がデーンと登場した。5紙で合計15人分の顔、顔、顔…。5紙を取り寄せ、ずらりと並べると圧巻で、漫画ながらどれも個性的な「顔」に喜怒哀楽がにじみ出る。
政治家は言葉を操るのが仕事だが、時として顔でも勝負せねばならない。たとえ論理的で説得力のある言葉だけが踊っても、国民は政治家としての生身の人間を、顔の表情や微妙な息遣いから認識する。政治家にとって見た目は命で、国民はその表情にリーダーぶりを見るのだ。腕組みして鬼滅のキャラから学んだ方がいいのでは、と思う政治家は多い。
サガテレビ解説主幹 宮原拓也
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